『Deep Skill ディープ・スキル 人と組織を巧みに動かす 深くてさりげない「21の技術」』を読んだ
雑感
- 一言でまとめると、「誠実でありながらも、戦略的に・したたかに、人と組織を動かすべし」という社会人サバイバルマニュアル。
- 引き合いに出されるシチュエーションが絶妙で、どれも「あるある」と頷いてしまうものばかりだったため、紹介されている内容に納得感がある。
- ある程度大きな組織の中で生きていく会社員、とくに管理職は読むべき。というか全員読んで欲しい。
メモ
感銘を受けた部分は多々ある(手元の読書メモに残してある)のだが、特に響いた箇所をまとめる。
はじめに
- 仕事とは、「誰かの”不”を解消し、喜んでもらって、その対価をいただく」こと。
- 会社員の強みは、会社が有するリソース(ヒト、モノ、カネ)を活用して、世の中の「不」を解消できるということ。
- 会社のリソースを使えるからこそ、ひとりではとてもできない「大きな仕事」ができる。
仕事の定義は、筆者が非常に重要視しているようで、本書の中で何でも出てくる。汎用的で分かりやすい表現なので気に入った。
Deep Skillとは?
- 「知識」や「ノウハウ」は仕事するうえでの必要条件ではあっても、十分条件ではない。重要なのは「実行力」。
- しかし、人や組織は、理屈だけでは割り切れない複雑な存在。
- 人と組織を巧みに動かす「実行力」を身につけるために必要なのが、「人間心理」と「組織力学」に対する深い洞察力。
- 「深い洞察」に基づいた「ヒューマンスキル」を「Deep Skill」と名付けている。
第1章 「したたか」に働く
- 「ずるさ」ではなく「したたかさ」を磨く
- 「何をどのように伝えるかが大事」と言われることがあるが、実際のところは、相手は常に「誰が言うか」で判断する。
- 相手に「信頼できない人間」と思われている限り、どんなに正しいことを言っても受け入れてはもらえない。
- 人や組織を動かすとは、「この人に任せてみたい」「この人に力を貸したい」「この人の言うことなら信頼できる」などと、周囲の人たちに自発的に思ってもらうことに他ならない。
- 信頼を勝ち取るためには、誠実でいること。
- 一方で、単なる「いい人」になってはいけない。信頼にディープスキルを組み合わせる。
- プロジェクトを成功させるためにどうすべきか、という「目的合理性」に徹して物事を考え、行動することが大事。
1章の章テーマとなっているとおり、本書を通して重要なマインドセット。この意識が根底にあってこそ、他で紹介されているメソッドが活きてくると思う。
- 優柔不断な上司に「決断」を迫る
- 正論は自分を律するために用いるべきものであって、これを他者に押し付けようとしても反発されるだけ。
- 正論は、「自分は正しい」と思うからこそ、一方的に相手を責めるスタンスに立ちやすい。それゆえに相手の反発を招いてしまう。
- 正論は脇に置いて、現実を見つめる
- 例:上司が決断してくれない
- 正論:意思決定するのが上司の仕事だろう!
- 現実:そもそも上司は意思決定したくない存在である
- 意思決定したくないのはなぜか?を掘り下げる。安心材料が足りないなら、集めるなど。
これには目から鱗だった。言われればたしかにその通りなのだが、なかなか実践できている人はいないように思う。自分が上司であっても部下であっても、組織の中で働く以上必要になってくるスキルだと感じた。
- 会社で「深刻」になるほどのことはない
- 精神状態が歪んでいると、思考も歪んでしまう。
- 企業人として、きちんと組織的な承認を得ながら仕事を進めている限り、たとえ担当事業に失敗したとしても、その全責任を負う立場にはない。
- 「RPG」を攻略するかのように余裕をもって事態に対処する。
- 「会社のことで深刻にならない」という「達観」を養い、どうしても納得できなければ「退職」というカードを切ればいいだけ。
「会社のことで深刻にならない」というマインドは、精神衛生上非常に重要だと思う。これまで深刻に捉え過ぎて身体を壊してしまう人を何人も見かけてきた。会社のせいで自分が潰れたら、自分も、会社も得することがないはず。この気概を持って生きたい。
第2章 「人間関係」を武器とする
- 弱者でも「抜擢」される戦略思考
- 「実績」こそが発言力の源。
- 「実績」を打ち立てることによって、自分の存在を認めてもらうほかに活路を拓く方法はない。
- 圧倒的な「量」をこなすことで、自然と「仕事の質」は高まっていく。そして、「仕事の質」が高まれば、「結果」は必ずついてくる。
- 「形式知」は勉強すれば誰でも手に入るが、「経験知」は自身の経験からしか得られない「唯一無二」のもの。「経験知」を蓄積すること。
- そのうえで「ほかの人と同じことをしない」。
- 組織の中で希少価値のあるスキルを「武器」にすることができれば、「自分の価値」を劇的に高めることができる。
- 「ポジショニング」するうえで大切なのは、「組織にとって重要であるにもかかわらず、まだ誰もいない領域」を見定めて、そこにいち早く飛び込んでトップランナーになること。
「ポジショニング」の話は自分の経験とも重なる部分があり、頷きながら読んだ。
- 「専門性の罠」に陥ってはならない
- 「専門性」を高めれば高めるほど、ビジネスの「本質」から遠ざかるリスクも高まってしまう。
- 製品やサービスを提供することを通して、「不」とつく言葉を解消することこそがビジネスの本質。
- 「どんな人が」「どんな場面で」「どんな”不”を感じているか」に思いを馳せ、「どうすれば、その”不”を解消できるか」を考え抜く。
- お客様と直接触れ合う機会をできるだけ多く作ることが重要。
- 「普通の人」の「普通の生活」のなかで、自分の中に生起する「感情」をちゃんと味わう。
- 「お客様=普通の人々」の気持ちや感情に共感するためには、まず、自分の「感情」がイキイキとしていなければならない。
- 一方の手に「専門性」を、もう一方の手には「感情」を。
面白いジレンマだと思う。最後の一文は座右の銘のひとつにしたい。
- まず、自分の「機嫌」をマネジメントする
- 自然と「人が寄ってくる」ということは、その人物に「求心力」があることを示す1つの証拠。
- マネージャーとして「求心力」を発揮するためには、何をさておき「機嫌よく」いること。
- どうすれば機嫌よくいられるのか
- 第一に「自分を知る」。常に自分の機嫌が良いかどうかをモニタリングすること。
- 第二に「できるだけ仕事を手放す」。人間は誰しも大量の仕事を抱え込んで時間に追われると、どうしても不機嫌になってしまう。
- 第三に「仕事をすれば、トラブルは必然的に起きる」と腹をくくる。そうすれば、平常心で事態を受け止めることができる。
- 重要なのは、トラブルの目が小さいうちに組織的な対応をとること。
- マネージャーは部下からのトラブル報告を、むしろ歓迎する。
- むしろ、「トラブルが起きたということは、部下が仕事を頑張っている証拠だ」と思うことすらできる。そして、「不機嫌」になることなく、「平常心」でトラブル解決に向けて動き出すことができるわけです。
- 部下のトラブルは、マネージャーにとって腕の見せ所。「よし、自分の出番だ」くらいに考えるべき。
- みんなが「機嫌よく」仕事ができる環境を生み出す。
・・・大事なのは、「マネージャーとメンバーの役割を明確化する」ことです。「現場の仕事」を担うのはメンバーの役割ですから、マネージャーは極力それに手を出さないほうが良い。マネージャーは、メンバーをサポートすることによって、チーム全体のパフォーマンスを最大化すると言う役割に徹するべきなのです。・・・
・・・ 「業務時間中は全て部下のための時間である」と腹を決めておけば、部下に声をかけられて「自分の仕事」を中断されても、「機嫌よく」対応することができます。その結果、部下も安心して、私に「報連相」をしてくれるようになり、コミュニケーションの量が増えるとともに、その「質」も高まっていきました。 しかも、メンバーの多くは、「重要な仕事を任せられた」ことに意気を感じ、それまで以上に熱意を持って仕事に取り組んでくれるようになります。・・・
個人的に本書で一番心に刺さったのはこの話。心理的安全性の高い組織を作る上では必須のスキルだと思う。実践したい。
第3章 「権力」と「組織」を動かす
- 「調整」とは、妥協点を探すことではない
- 組織と言うものは、「武将館対立」が起きる構造になっている。
- 「調整」と言うものは誤解されている。 お互いに「情報」することって、「妥協点」を見つけようとすることが多いため。
- 「交渉学」の真髄は「立場から利害へ」ということにある。
- 対立関係にある両者が、お互いに「情報」することで交渉がまとまるケースはほとんどなく、相手の利益・関心を引き出して、「共通の利害」を探り当てることこそ交渉、成功させる秘訣。
- 本来あるべき「調整」とは
- 向かい合って「争う」「情報」「妥協」はNG。
- 「共通の依頼」を考えて、同じ方向向いて取り組むのが良い。
「調整」の話は、理想論になりがちだが筆者の体験が具体的に書かれていて参考になった。ただ、本書にあるような緻密な調整を行うには、かなりの「調整スキル」が求められるのではなかろうか・・・。また、この思考法を持っている人が複数人いないとなかなかうまくいかないのでは、とも思う。
第4章 「人間力」を磨く
- 人間の「哀しさ」を理解する
- 「好き嫌い」の感情を上手にコントロールする
私は、ある種のクールさが必要だと思っています。そもそも、会社は「仕事」をする場所です。社員は「仲良くなる」ために集められたのではなく、「事業」を推進するために集められたのです。そのような場所で、「好き嫌い」を持ち出すことがそもそもおかしい。「相性」がよかろうが悪かろうが、「好き」だろうが「嫌い」だろうが、誰とでも力を合わせて「結果」を出すのが仕事。自分の「感情」は横において、あくまでも「目的合理性」に徹するべきなのです。ここで言う「目的合理性」とは、、自分が成すべき「業務目的」を達成するうえで、「合理性」のある言動に徹するという意味です。
「目的合理性に徹する」という姿勢はストイックで気に入った。